茶色い人's ダイヤリーア

薬学生の現実逃避日記です。

A Boy Called Pig 和訳 Part1

『ブタと呼ばれた男の子』クーパー・バルディス

Part1

 

   その男の子は4歳になるまで、ブタとさえ呼ばれなかった。生まれた時点では確かに名を与えられていたのだが、すぐ周囲に忘れ去られてしまったのだ。しかし、その男の子の家族(両親と5人の兄弟)は、誰も彼に話しかけることがない。したがって、名前の有無が問題になるようなことはなかった。

   食事の時も、当然のように彼の席は用意されていなかったのだが、彼はディナーテーブルの下に陣取り、そこへ食べ物が落ちてこようものなら、それが何であれ、食べた。生きる為にはそうするしかなかったのだ。幸い、かなり悲惨な食べ方をする家庭だったので、彼は1歳までその方法で生き延びることができた。

 

   しかし彼が歩けるようになった頃、存在を無視することさえ煩わしくなったのだろうか、兄弟達に家を追い出されてしまった。そこで彼はニワトリ達と出会う。初め、ニワトリは彼を拒んだが、結局は彼のことをニワトリの一員として認めた。彼のニワトリとしての振る舞いは、それなりに悪くなかったのである。

   彼が地面の餌を突き、他のニワトリ達に話しかけるその様子を見て、兄弟達は泣きながら手を叩いて笑ったものだ。

「なんだいこの、馬鹿で醜いケダモノは!」

しかし彼はそれを全く気に留めなかった。気に留めるはずもなかった。なぜなら彼はその時すでに、その家族ではなく、ニワトリの群れに属していたのだから。

 

   彼がニワトリになって一年後、身体の成長に伴い(彼はまだ2歳だったが)、ニワトリ用の種や、穀物ではどうしても不足するようになった。彼はニワトリ達に別れを告げ、農場を彷徨い、そしてとうとう、豚小屋に辿り着いたのである。その豚小屋は、兄弟達が暮らす家から遠く隔れていた。豚達が放つ臭いのためである。しかし、餌の量がニワトリのそれと比べ遥かに多い、という極めてシンプルな理由から、彼はすぐにその場所を気に入った。

   

    そうして彼は豚達と共に、豚のように大きく、豚のようにたくましく育った。兄弟達は未だに彼の元を訪れ、ゲラゲラと笑うのをやめなかったが、当然そのことは気にも留めず、本当の家族(言うまでもなく豚達のことだ)との幸せな暮らしを送っていた。そこでもまた、彼は豚達にうまく溶け込んだのである。

    そして丁度その頃、兄弟達は彼を ”ブタ” と呼び始めたのだ。お世辞にも賢いとは言えない、その想像力に乏しい脳みそでは、 ”ブタ” は思いつく限り、最も彼にふさわしい名前であった。

「なんていう食べる量、そして食べ方なの!あれは本当に豚、豚そのものだわ!」

と、見たままの感想を述べ、手を叩き笑って帰っていく、という一連の道楽を除けば、兄弟達はブタに対して関心を払わなかった。そしてブタもまた、彼らに対して関心を払わなかった。豚達との幸せな暮らしが、ブタにとっての全てだったからである。

   しかしそんなブタにも唯一悲しい瞬間があるとすれば、それは兄弟達が豚を1頭、ニワトリを1羽、食料として選び連れ去っていく時だ。その時のブタの悲しみようと言ったら、その日から1週間ほど、豚の餌が喉を通らないほどであったという。

 

(Part2へとつづく)